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Appleの会計変更のまとめ

今日、2009年度のAppleの決算が発表になりましたが、その際に行われた会計基準の変更が相場を騒がせています。具体的には、iPhoneの収益計上基準が2年間の分割から売上時の一括計上に変わったのですが、この理由が過去の経緯を知らないと分かりづらいので、これを気に纏めてみました。纏めと言いつつ長くなってすいません。

時は遡ること2年程前、2007年の1月頃にMacbookをリリースした際、ハードウェア上はWi-Fi(802.11n)に対応したものを出荷していましたのですが、ソフトウェア部分については、その時点では802.11nの規格が定まっておらず、インストールできないという事態が起こりました。
その後、規格が正式に決まり、ソフトウェアも準備完成。さあリリースだという運びになったのですが、ここで会計上の問題に直面します。Macbookの収益基準はコンピュータが売れた時(Point-of-Sale)。このWi-Fi対応は販売時点より後のリリースということになります。
会計上のルール(SOP97-2)では、「ソフトウェアがバラバラにリリースされる場合、各ソフトウェアの価値を算出して、機能使用開始の時点で収益計上せい」という事になっています。かつ、このルールを適用するためには「VSOE:Vendor-Specific objective evidence」、要は「部品をバラバラに売ったときにそれぞれどれぐらいの価値があるか?」を証明する書類を提出する必要があります。
サービスの提供時点から利益計上を開始するというのは、会計の観点からは確かに一理あります。ところが、世の中に出回ってないの802.11nだけの機能価値なんてどうやって計算するのでしょうか。到底無理な話です。

困ったアップルはどうしたかというと、Wi-Fiアプリを既存機能の追加とみなし別個に販売。この分に$1.99ドル課金するようにしたのです。この課金騒動は、Apple側は「GAAP(会計基準)のせいで課金しなきゃいけなかった」と主張し、FASB(基準を決める側)は「金取れなんて言ってない!」と言って物議を醸したのですが、どっちが正しいのかはハッキリとしていません。ただ、はした金取るとは何なんだ!とユーザーから不満の声が上がったのは事実なようです。

それから半年後の2007年6月。いよいよiPhoneの発売のタイミングなのですが、iPhoneもMacbookと同様の問題を抱えている事が分かります。機能のアップグレードは購入後も行われますが、その都度課金してたらユーザから突き上げを食らうのは目に見えてます。このため、Appleは販売前に対応方針を決めていました。2007年3月、同様の問題を抱えるApple TVのリリース時に、これらの商品については無償アップグレードを行うという方針を発表します。これに併せて、会計基準をPoint-of-Saleから変更。具体的にはSOP97-2に従うように、2年分の対価を一括で貰いつつ、収益については2年間に分けて分割計上する(Subscription)という会計基準を取ったのです。

このあたりの話は、以下のサイトに詳しく載っています。iPhoneはsubscription, iPodはpoint-of-saleを適用したので、同じ機能をリリースしたにも関わらず、iPhoneは無料アップグレード、iPodは有償とおかしな状況になっています。

杉田庸子の「U.S.発 企業会計最前線」 iPod Touch 有償アップグレードの不思議 経済のサービス化で変わる売り上げの計上基準

さてこれで問題解決・・・と思いきや、別の問題が発生します。

2年間繰延できるのは、売上原価(Cost of goods sold)の分だけです。なので、開発費やら販管費やらは発生時点で計上になる。このズレは結構決算に響きます。既に世の中に出てしまったiPhoneはともかく、今後類似した商品を出す度に同じ問題に直面していたらたまったものではありません。

そこで、Appleは、他のソフトウェア企業と連携してこのルールの修正、VSOEの撤廃をFASBに依頼します。具体的には、当初の販売代金の一部を、将来アップグレードの費用として割り当てる方法にして欲しいと申請したのです。FASBにとっては、アップグレード分の費用割当が恣意的な運用になってしまい、損益操作の可能性が無いとは言えなくなるのであまりやりたく無かったのですが、しぶしぶ了承。当初の(ハード+ソフト)債務、ソフトウェアのアップグレード費用という将来債務を区分しつつ、収益上は合算して一括計上できる仕組みを採用しました。

twitterで、広瀬隆雄さんが、FASBの修正案のリンクをtwitterに貼られていたので、それを使って解説してみます。あまり関係無さそうなところは訳してません。

The Proposed Model and Receivables Accounting


中段あたり、Options to Acquire Additional Goods and Servicesの下


The Board decided that an option to acquire additional goods and services in a contract with a customer would be recognized as a performance obligation only if the option provides a material right to the customer that the customer would not receive without entering into that contract. An entity would account for that performance obligation by allocating to it a portion of the transaction price.

当委員会では、顧客が当初契約に付随して追加サービスを受け取れる権利を、当初契約が無ければ提供されない場合に限り、履行債務(performance obligation)として認識する事を決定した。企業(an entity)は、この履行債務を当初の受渡価格の一部として認識する。


The Board decided that an entity can use various methods to allocate consideration to those optional goods and services. In some cases, an entity can estimate the standalone selling price of an option as a basis for allocation. That estimate would reflect the discount the customer would obtain when exercising the option, adjusted for the following:
1. The discount that the customer could receive without exercising the option
2. The likelihood that the option would be exercised.

The Board decided that with renewal and cancellation options, an entity could allocate the transaction price to the optional goods and services by reference to the goods and services expected to be provided and the corresponding expected consideration.

当委員会では、企業が様々な手法を用いてこの追加サービスの対価を計算する方法を容認する。一例としては、企業は単体での販売価格を計算する方法が挙げられる。当予想額は、以下の点を調整した上で、顧客が受け取れる割引額を反映する。
   1.オプションを行使しないで顧客が受け取ることができる割引額
   2.オプションを行使する可能性
当委員会では、このオプションの更改、及びキャンセルの際には、企業が販売価格の一部を再度割り当てることを可能とすることを決定した。

こうして、無事にソフトウェアの将来価値付加分を一括計上できるようになったんですね。

以下、Appleの出来立てほやほやの2009年度10-kより抜粋。ざっくり意味がわかるように、仮訳を付けています。

As amended by this Form 10-K/A, the Form 10-K reflects the Company’s retrospective adoption of the Financial Accounting Standards Board’s (“FASB”) amended accounting standards related to revenue recognition for arrangements with multiple deliverables and arrangements that include software elements (“new accounting principles”).

当報告書で修正されている通り、この10-Kより「ソフトウェア収益認識修正版の会計基準」を遡及適用する事とした。

The new accounting principles generally require the Company to account for the sale of both iPhone and Apple TV as two deliverables. The first deliverable is the hardware and software delivered at the time of sale, and the second deliverable is the right included with the purchase of iPhone and Apple TV to receive on a when-and-if-available basis future unspecified software upgrades and features relating to the product’s software.

新しい会計原則の元では、iPhoneとApple TVは 2つのdeliberable(派生物)に分ける必要がある。一つ目のdeliverableは購入時にハードウェアとソフトウェアであり、二つ目は購入時に付随する、将来的にアップグレードできる権利である。

The new accounting principles result in the recognition of substantially all of the revenue and product costs from sales of iPhone and Apple TV at the time of sale. Additionally, the Company is required to estimate a standalone selling price for the unspecified software upgrade right included with the sale of iPhone and Apple TV and recognizes that amount ratably over the 24-month estimated life of the related hardware device. For all periods presented, the Company’s estimated selling price for the software upgrade right included with each iPhone and Apple TV sold is $25 and $10, respectively. The adoption of the new accounting principles increased the Company’s net sales by $6.4 billion, $5.0 billion and $572 million for 2009, 2008 and 2007, respectively.

新会計基準では、実質的に全ての収益及びコストを販売時に計上できる。アップル社は、将来24ヶ月間のアップグレード権を見積もる必要があるが、iPhone及びApple TVのアップグレード権をそれぞれ$25,$10と推定した。この変更に伴ない、売上は2009年に$6.4B, 2008年に$5B,2007年に$0.572Bそれぞれ増加することとなった。

この会計変更、Appleだけではなく、他のソフトウェア会社にも影響があると思います。
時間があれば、そのあたりも追ってみたいと思います。

おまけ:参考文献
Apple's 802.11n accounting conundrum
New Revenue-Recognition Rules: The Apple of Apple's Eye?

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米国シカゴ郊外在住の金融系元IT屋によるブログ。金融業界での勤務経験を元に、世の中に流れるニッチなニュースを、できるだけ噛み砕いて解説する事をコンセプトとしたブログ。
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